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仙台高等裁判所秋田支部 昭和59年(ネ)108号 判決 1985年7月17日

控訴人(被控訴人)

大正海上火災保険株式会社

被控訴人(控訴人)

佐藤豊五郎

ほか一名

主文

一  附帯控訴に基づき原判決中控訴人(附帯被控訴人)に関する部分を次のとおり変更する。

二  控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)佐藤豊五郎に対し、金六〇九万一、二二〇円及びこれに対する昭和五六年六月二一日から右支払い済みまで年五分の割合の金員を、被控訴人(附帯控訴人)佐藤ツヤに対し金五六〇万一、二二〇円及びこれに対する昭和五六年六月二一日から右支払済みまで年五分の割合の金員をそれぞれ支払え。

三  本件控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、控訴人と被控訴人らとの間で原審において生じた分はこれを二分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の、その余を被控訴人らの各負担とし、当審において生じた分は控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

五  この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実

被控訴人(附帯控訴)代理人は、当審において請求の趣旨を変更し、代位請求を直接請求に改めた上、主文第二、三項と同旨の判決を求めた。

控訴(附帯被控訴)代理人は「原判決中控訴人(附帯被控訴人。以下単に控訴人という。)に関する部分を取り消す。被控訴人(附帯控訴人。以下単に被控訴人という。)らの原審及び当審における請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決六枚目表二行目に「以上の次第で」とあるのを「4 以上の次第で」と改める。

2  同六枚目表九行目から七枚目表三行目までを次のとおり改める。

「二 昭和五八年(ワ)第二九六号関係の請求原因

1 昭和五七年(ワ)第三九〇号関係において主張した請求原因1ないし3記載の主張と同一である。

2 さらに、一審被告賢は、加害車につき本件事故当時、控訴人と自動車対人賠償責任保険(自家用自動車保険)契約を締結している。他方、一審被告春雄は、賢と同居する親族であり、前記のとおり加害車を買受けて所有管理していた。

したがって、両名は、同保険にいわゆる被保険者である。

3  被控訴人らの控訴人に対する請求と一審被告中川賢(以下単に賢という)、同中川春雄(以下単に春雄という)に対する請求とは原審において併合審判され、本件事故に基づく賢、春雄の被控訴人らに対する損害賠償責任額は、被控訴人らが当審において控訴人に請求する限度の額で原審で認容され、同判決は確定した。

4  よつて被控訴人らは賢、春雄の控訴人に対する保険金支払い請求の代位行使を改め、本件保険約款一章六条二項(1)に基づき、直接、控訴人に対し、当審における請求の趣旨記載の金員の支払いを求める。」

3  原判決七枚目表七行目に「2 同2のうち(1)ないし(4)は認める。」とあるのを「2 同2の(一)のうち(1)ないし(4)は認める。」と改める。

4  原判決八枚目表一行目から同裏二行目までを次のとおり改める。

「B 第二九六号の請求原因について(控訴人の答弁)

1 請求の原因1の事実に対する答弁は、A第三九〇号事件の請求原因に対する答弁と同一である。

2 同2のうち、賢が控訴人との間で、加害車につき被控訴人ら主張の時期に、その主張の保険契約を締結していたこと、春雄が賢の父であることは認めるが、その余の主張事実は争う。

3 同3、4の主張は争う。」

5  同八枚目裏六行目及び九枚目表八行目に各「被害車」とあるのを「加害車」と改める。

6  同一二枚目裏四行目に「(二)」とあるのを「(2)」と改める。

7  同一四枚目表四行目に「3 同4の過失相殺の主張」とあるのを「3 同3の過失相殺の主張」と改める。

証拠の関係は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  本件事故の態様、損害、過失相殺、弁済等についての当裁判所の認定判断は、原判決理由一ないし六記載のとおりであるからこれを引用する。

二  被控訴人は、賢は加害車につき、控訴人と自動車対人賠償責任保険を締結しており、賢、春雄はいずれも被保険者であり、本件事故による両名の被控訴人らに対する損害賠償責任は、右両名と被控訴人らとの間で判決で確定されているから、右保険の約款一章六条二項(1)により被控訴人らの控訴人に対する請求権として直接損害賠償の支払いを求める(被控訴人らは、賢、春雄の保険金請求の代位行使を改め、損害賠償の請求に改めた)というので判断する。

1  成立に争いのない丙第一ないし第三号証によると、加害車については、昭和五六年五月二八日に、保険期間同年五月二九日から翌同五七年五月二九日まで、対人賠償額金三、〇〇〇万円とする自家用自動車保険契約が控訴人と締結されていることが認められ、右保険の契約者(記名被保険者)は、賢であることは当事者間に争いがない。

そして、右丙第一号証によれば、本件保険契約約款一章一条一項、二条には、控訴人は被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害をてん補すること、同約款一章三条には、被保険者とは記名被保険者のほか、記名被保険者の同居の親族で被保険自動車を使用または管理中の者を含むとされていることが認められる。そして、成立に争いのない乙第四〇ないし第四二号証、原審における被告中川春雄本人尋問の結果によると、春雄は、記名被保険者である賢の同居の親族であり、本件加害車は、春雄が購入資金の一部を負担して同人名義で購入して登録し、自分の仕事などのため、子の賢に運転させて使用していることが認められる。

そして同人が自賠法三条にいわゆる運行供用者に該当し、被控訴人らに対し、少なくとも自賠責保険金二、〇〇〇万円がすでに支払われていることは控訴人も認めるところである。

そうすると、春雄もまた本件保険約款により、被保険者に該当するというべきである。

2  賢、春雄に対しては、原審において、昭和五九年八月二一日、両名は各自(1)被控訴人佐藤豊五郎に対し金六〇九万一二二〇円およびこれに対する昭和五六年六月二一日から右支払いずみまで年五分の割合による金員、(2)被控訴人佐藤ツヤに対し金五六〇万一二二〇円およびこれに対する昭和五六年六月二一日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払えとの判決が言渡され、同判決が確定したことは当裁判所に明らかである。

3  そして、右丙第一号証によれば、右保険約款一章六条二項(1)には、被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で判決が確定したときは、損害賠償請求権者に対して、同保険約款同条三項に定める損害賠償額すなわち被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額から自賠責保険等によつて支払われる金額を差引いた額の損害賠償を支払うとされていることが認められる。

成立に争いのない乙第五五、五六号証によると被控訴人らが、自賠責保険金二、〇〇三万七五六〇円の支払いを受けたことが認められ、前記確定判決が賢、春雄に支払いを命じた金員の額は、右自賠責保険金の支払い額を差引いたものであることは明らかである。

三  これに対し控訴人は、本件事故は賢の故意によつて生じた損害であるとして、控訴人(保険会社)の免責を主張する。

右免責の抗弁に対する当裁判所の判断は、原判決理由七、2と同一であるからこれを引用し、なお次のとおり附言する。

成立に争いのない乙第二、第一四号証によれば、賢の亡佐藤昌宏に対する傷害致死被告事件の刑事判決においては、賢の故意としては暴行の認識のあつたこと、右暴行の内容、態様としては、加害車を被害車側すなわち被害者の身体に接近させていつたという有形力の行使であるとして判示されていることが明らかである。いずれも成立に争いのない乙第一四号証、第二〇ないし第二五号証、第二七ないし第二九号証、第三四ないし第三七号証、第四三ないし第五三号証、第五七ないし第六五号証によれば、賢の本件事故における認識の程度、範囲は、前記刑事判決におけると同様に、加害車を被害者に接近させるという有形力を行使することについての認識を有するに止まつたものと認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。そして、この意味の認識は、本件保険の目的すなわち、被保険者の自動車の使用等に起因して、他人の生命身体を害することによつて、被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害をてん補するという目的及び被害者の直接請求を許容する本件保険約款の趣旨に照らすと、いまだ同保険約款一章七条一項(1)にいわゆる故意には当らないというべきである。

四  以上によれば、控訴人は、判決で確定された前記損害賠償責任額の支払い義務があり、控訴人に対し右義務の履行を求める被控訴人らの本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

五  よつて、原判決を右の趣旨に変更することとし、控訴人の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条、九二条、九五条、九六条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川良雄 武藤冬士己 田口祐三)

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